最近読んだ本。
3冊ともバス、電車の移動中に読んだもの。
ハードカバーの単行本は、自宅で読むのだけど、最近すぐに眠くなってしまって、なかなか進みません…
町田康の「猫にかまけて」「猫のあしあと」は、彼が飼っている猫たちとの日々が綴られたもの。
この人の文章の面白さでよんでしまうし、随所にはさまれた猫の写真も愛らしく、ときに痛ましく、彼と一緒に猫の心配をする羽目に陥ってしまいます。
ココア、ゲンゾー、奈奈といった彼の家にいる猫だけではなく、ノラちゃんだったため、感染症を持っている猫たちがいて、連れ帰ることができないので、仕事場に住まわせている。
その中のヘッケという猫の話は、ヘッケの健気な生命力と、町田夫妻の懸命な看護の姿が心に迫り、電車の中なのに、涙をおさえられなくなりました。
その直前には町田康一流のおかしさで、つい吹き出していたから、電車の中で笑ったり泣いたりの怪しいオババになってしまった…
続編の「猫のあしあと」もともに、猫の死が何度も記されていて、ヘッケの最期まで病と戦った姿、長年共に生活したココア、ゲンゾーの死、ボランティアから預かったもともと病気持ちの猫の死、どれも辛く悲しい。
可愛い猫ちゃんたちのほっこりするお話、とはちょっと違う、猫と共に生きること、その楽しさと同じように、猫を看取るという重さをも書かれています。
そうはいっても、町田康独特の文体で、つい笑いながら読み進めてしまう。
ものすごく気の強い奈奈が、新入りの病気持ちの小さな黒い仔に見せる反応など、もうおかしくておかしくて。
さらに続々編もあるようです。町田さんちの猫ちゃんたち、どうなってるか気になるところです。
クッツェーの「恥辱」
ずっと以前に「マイケル・K」についてちょっと書いたことがあります。
「マイケル・K」と一緒にこの「恥辱」も夫が買ったのだろうと記憶していますが、なんだか食指が動かず…というのは、文庫本の帯の紹介文に「52歳の大学准教授が、女子学生に手を出してうんぬん」とあり、その手の話はあまり好きでないなあ…と思って。
収集癖のある蘇我夫は、自分も読まないのに、同じ作者の本をまとめて買う。で、この「恥辱」は、何年も開かれる事なく本棚でほこりをかぶる「屈辱」を味わっていたのでした。
今頃取り出して読んだのは、友人に聞いたら帯に書かれた女子大生とうんぬんは、この小説のほんの冒頭だというし、「月と6ペンス」みたいなエグい話の好きな友人が面白いというなら、読んでみましょうと。
で、エグかったです。
舞台は、アパルトヘイトからようやく解放された頃の混乱期だそうです。
確かに女子大生へのパワハラ、セクハラはデイヴィッド・ラウリー教授の転落のきっかけにすぎなかったようです。
よくわからないけど、仕事にも嫌気がさしていたのか、彼はなんとか救済しようとする大学上役同僚の言葉には耳をかさず、さっさと辞めてしまって、スキャンダルから逃げるように、田舎に引っ込む。
2度離婚した彼が最初の結婚で儲けた娘がいて、農園を営んでいるところに同居するようになる。
そこから、これでもかこれでもかと、嫌なことが続きます。
暴力、動物虐待、性暴力、無気味な隣人の野望…
血生臭いことが嫌いな人にはぜったいおすすめできません。
しかし、クッツェーの筆力でしょう、わたしは頭痛くなりながらも、新神戸ー東京往復の新幹線の中で、全部読んでしまいました。
動物虐待と一言で言ってしまったけど、むろんこれには背景があり、まったくもって嫌な不快なことではあるけど、これも乱暴ながら一言で言えば必要悪みたいなものであるらしい。
ラウリーはその行為を手伝う。ペヴという、美人好みのラウリーからすると絶対に不愉快な女性(獣医ではないが、飼い主が持ち込んだいらない犬の「処分」をするヴォランティア)を手伝う。
「犬のように!」というカフカの「訴訟」にあることばを、この小説の終わり近くでラウリーと娘のスーザンが繰り返すのがキーワードなのでしょう。
ここでは犬が何頭殺されているか…むろん人間に。
そして人間も犬のように生きる。
しかし、娘の生き方は、ラウリーとは真逆と言ってよく、「恥辱」を受け入れてしまうことで、むしろ彼女なりに生きる決意を表しているようです。「都会派」の父親とは違う、地を這いつくばりながら生きる道を選んで。
ラウリーも最終場面で、ペヴを手伝って、可愛く思っていた子犬を死に向かわせる時、今の恥辱にまみれた自分を、そのまま生きる決意を見せたように思われます。
教授と女子学生のスキャンダルか、と思いきや、やはり「マイケル・K」の作者は、そんなヤワな話ではすまさず、「マイケル・K」と同じように、土の匂い、血の匂い、暴力、理不尽な災難とその前には無力なこと、それでも生きることを書いていました。
小説とはいえ、今はもう少しは治安がよくなったんでしょうね、と南アのことを思ってしまう。
そうえいばラグビーでは日本代表が負けた相手が南アでしたね。
「恥辱」では、サッカーについては何回か触れたシーンがありましたが、ラグビーは出てこなかった。
理由を考えるほど、南アについて知識がないからやめておきます。
ともかく、全然楽しくないけど、小説の凄さならば感じることのできる作品でした。
なんでも楽しければいいわけじゃないし、ね。
スポンサーサイト